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リーガルコラム・ライティングの技法

by 弁護士 木村 剛大/Kodai Kimura

· AI,アーティスト,著作権法,アートマーケット,美術手帖

リーガルコラム・ライティングとは

弁護士登録してから多くの論稿や記事を執筆してきました。個人的に書くのが好きなのは、専門的な論文よりも、一般読者向けのコラムです。ここでは法律関係のテーマを素材にした一般向けのコラムを「リーガルコラム・ライティング」と呼びます。

ここ数年は、アート・ローに関する記事を読んだといって連絡をいただき、法律相談や講演の依頼につながることも多いですし、記事を読んだ別のメディアからまた執筆や取材が来ることも頻繁にあります。リーガルコラム・ライティングは分野を問わず使える汎用的なスキルであると考えています。

もちろん、ライティングの技法に絶対的な正解があるわけではなく、日々試行錯誤してアップデートしていくものです。今回は、美術手帖での連載を具体例として、私の意識しているポイントや視点をご紹介します。

技法の紹介

1 具体例が腕の見せ所

法律論は抽象論なので、具体例がないとイメージが湧きにくいです。読者が興味を持ちそうな具体例を示せるかは筆者の力量によって大きく左右されるので、適切な具体例を入れられるかが腕の見せ所となります。

・「現代美術のオリジナリティとは何か?著作権法から見た『レディメイド』(1)(2)」

連載の第1回「現代美術のオリジナリティとは何か?著作権法から見た『レディメイド』(1)」では、マルセル・デュシャンの「泉」からスタートしました。これはこのテーマを扱うときに誰もが入れる有名な具体例でしょう。

その他に誰の作品を取り上げるかは迷ったのですが、ジェフ・クーンズの掃除機を展示した作品である「ニュー・フーバー・コンバーチブルニューシェルトン・ウェット/ドライ・5ガロン ダブルデッカー」とダミアン・ハーストの薬品キャビネットシリーズの「Sinner」を取り上げました。

クーンズ、ハーストの両名ともに現代美術作家としてトップクラスに有名なアーティストであるため、読者が知っているであろうことがひとつの理由。もうひとつの理由は、後編の「現代美術のオリジナリティとは何か?著作権法から見た『レディメイド』(2)」で検討する法律論でも異なる要件の記述で取り上げることができるためです。

・「アーティスト必見。知っておきたい契約の基礎知識」

契約をテーマにした「アーティスト必見。知っておきたい契約の基礎知識」では、キャメロン・ローランドの契約書を展示した作品「Disgorgement」を冒頭に取り上げました。契約書というと固いイメージがあるので、契約書自体を現代美術の作品としたアーティストを取り上げることで、読者の興味を引くのが狙いです。

どのように適切な具体例を探すかは難しいところですが、普段から文献を読んだときにメモをしておいたり、具体例をストックしておいたりするとよいと思います。現在ですと、生成AIを使用してリサーチするのも有効でしょう。

また、具体例を画像等のビジュアルで示すことも重視しています。やはり文字だけの記事よりもビジュアルがあるほうが読者にとっては具体的なイメージが持ちやすいためです。

2 比較の視点

比較の視点も大切にしています。記事としては、「『アイデア』と『表現』の狭間をたゆたう金魚かな。金魚電話ボックス事件大阪高裁判決の思考を追う」が比較の視点をしっかりと打ち出した内容となっています。


まず、金魚電話ボックス事件大阪高裁判決を素材とした解説記事ですので、奈良地裁判決との比較をしています。

高裁と地裁の比較は当然行うことですが、独自の視点として、その後に西瓜写真事件の東京高裁判決と金魚電話ボックス事件大阪高裁判決とを比較し、両者の共通点を指摘して分析の視点としています。「金魚電話ボックス事件と西瓜写真事件の共通点は、いずれも依拠性の認定を通じて被告の不誠実な態度が浮上したことにより、類似の範囲を通常よりも広めに解釈したように見える点である。」と記載した箇所ですね。

さらに、末尾の部分では、自分の過去の記事で主張した理論との比較を入れて、共通点に言及しています。「現代美術のオリジナリティとは何か?著作権法から見た『レディメイド』(2)」で「後発者がことさらに先行者の作品を模倣しようという強い依拠性がある場合に、類似の範囲を通常よりも広げる解釈は成り立ちうるかもしれない。」と述べていたため、その理論と金魚電話ボックス事件の論理との共通性を指摘しました。

このように、この記事では、①地裁と高裁、②金魚電話ボックス事件と西瓜写真事件、③過去の記事で指摘した理論と金魚電話ボックス事件の論理、と比較の視点をしっかりと使った構成としています。

3 文章術

リーガルコラム・ライティングに限らないですが、文章術関係の書籍も一時期かなり読んだことがあります。大体書いてあることは共通しますが、1文は短く、丁寧に項目立てをする、語尾が単調にならないように変化をつけるといった基本は非常に大切だと思います。

一般的な文章術関係の書籍に書いていない事項で意識していることは、先行する文と重複する語句がある場合に、その次の文でなるべくその語句を冒頭に持ってくるということです。このような位置関係が読者にとって最も理解反応時間が短い、つまり、読みやすく、理解しやすいという研究結果があります(森敏昭編『おもしろ言語のラボラトリー』(北大路書房、2001)61頁以下)。


例えば、「注目を集めるNFTアート。新たなマーケットに求められるルールの明確化」での以下の文章。先行する文の「代替性のないトークンのことを指す。」を受けて、次の文では「代替性のないトークンを発行するための…」として、重複する語句を冒頭に持ってきています。

「NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)は、ブロックチェーン上での取引に用いられるユニークな(代替性のない)トークンのことを指す。

代替性のないトークンを発行するためのスマートコントラクトの規格であるERC721が通常用いられている。」

地味なテクニックですが、このような配慮も読みやすさにつながってきます。

4 遊び

最後に、これは好みもあると思いますが、ちょっとした「遊び」をあえて入れるときもあります。

・「現代美術のオリジナリティとは何か?著作権法から見た『レディメイド』(1)」

例えば、「現代美術のオリジナリティとは何か?著作権法から見た『レディメイド』(1)」では、デュシャンやデュシャンの作品から連想される用語を記事中で意図的に盛り込んでいます。

この記事では「チェックメイトとまではいかないにしても、今回の検討が著作権法学の駒を現代美術の世界に向けて一歩でも前に進めることを願っている。」という文章でして締めくくっています。

デュシャンはチェスのプレイヤーとしても有名であったため、「チェックメイト」や「駒を進める」というチェスの用語を選択して、遊びを入れています。この記事には他にも遊びを入れているので、探してみてください。

・「創作に関わるすべての人へ。米国著作権局『著作権とAIに関する報告書パート2:著作物性』のポイントを読み解く」

「創作に関わるすべての人へ。米国著作権局『著作権とAIに関する報告書パート2:著作物性』のポイントを読み解く」は、生成AIを使用した生成物が著作物になるのかをトピックスにした米国著作権局の報告書を解説した記事です。

ざっくり言うと、プロンプトの入力のみでは人間による寄与として十分ではないが、人間による加筆、修正は著作物と認められやすくする要素になるという内容です。

この解説記事の遊びとして、「この解説記事もファーストドラフトはAI(Claude 3.5 Sonnet)で生成し、そのドラフトを筆者が加筆、修正して作成した。このようにAIを道具として使用して創作する行為であれば、著作物性は問題なく認められる。」ということで、報告書の内容とリンクさせる記事の作成方法を採用しました。

法律関係の文章はどうしても内容が難しくなりがちですので、こういった遊びによってエンタメ要素を少しでも入れられる記事を個人的には理想としています。

おわりに

最近は「Claudeで書いてみた」シリーズが続いていたのですが、今回は「Claudeに頼らずに自力で書いてみた」シリーズとして、リーガルコラム・ライティングの技法についてご紹介しました。どこかひとつでも参考になる点があれば幸いです。

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