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ライセンスによる現代アートの二次創作

by 弁護士 木村 剛大/Kodai Kimura

2017年6月19日

またまたジェフ・クーンズ(→Artsy Jeff Koons page)です。今回話題になっているのは、2017年5月12日にニューヨークのロックフェラーセンターに設置されたパブリックアート「Seated Ballerina」(座るバレリーナ)。Seated Ballerinaは約14メートルの巨大な空気注入式のナイロン彫刻で、アート・プロダクション・ファンドとスキンケア・ブランドのキールズがスポンサーとなって設置された作品です。

ジェフ・クーンズ「Seated Ballerina」(2017)
出典:アート・プロダクション・ファンド

原作品に関する出所を明らかにすべき?

クーンズは、作品を公表した当初はロシアの工場で見つけた磁器人形からインスパイアされたと説明していたようです。※1 しかし、その後ニューヨーク在住の他のアーティストから1993年に亡くなったウクライナ人アーティストのオクサナ・ジュニクルプ(Oksana Zhnikrup)の作品「Ballerina Lenochka」がベースになっているとの指摘があり話題となりました。※2 

オクサナ・ジュニクルプ「Ballerina Lenochka」(左)

ジェフ・クーンズ「Seated Ballerina」(右)

出典:Jeff Koons’s Ballerina caught up in a pas de deux, THE ART NEWSPAPER, 25 May, 2017

もっとも、「原作品の盗用だ!著作権侵害だ!」ということで問題になっているわけではありません。クーンズのスタジオは、オクサナ・ジュニクルプ氏の作品を認識しており、クーンズの作品に原作品を使用するライセンスを得ていると説明しています。※2、※3 ただし、原作品に関する著作者名の表示はしておらず、出所を明らかにしていなかったのです。

ライセンスの内容は明らかではありませんが、このような他のアーティストの作品をベースとした新たな現代アート作品を制作する上での留意点を考えるにはよい事例だと思います。

他者の著作物をベースとしたアート作品の二次創作

まず、日本法での基本的な権利関係を説明します。原作品の著作者であるアーティストには原作品に対する「著作権」と「著作者人格権」があります。「著作者人格権」というのは、①公表権、②氏名表示権、③同一性保持権の3つです。出所については氏名表示権と関係してきます。

クーンズの作品はジュニクルプの原作品をベースとした二次的著作物となります。そして、ジュニクルプは、原作品について自分の名前を著作者として表示するか、しないかを選択することができます(著作権法19条1項1文)。さらに、原作品をベースとした二次的著作物についても、原作品の著作者名を表示するか、しないかを選択できるのです(著作権法19条1項2文)。

なお、原著作物の著作者でない者の実名又は周知の変名を原著作物の著作者名として表示した二次的著作物の複製物を頒布した者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又は双方が科されるとして、刑事罰の対象にもなっています(著作権法121条)。

著作者人格権については譲渡はできないと解釈されていますが、契約で取り扱いに関する合意をすることはできます。そのため、二次創作をする現代美術作家の立場からすると、契約の際は以下の点に注意して取り決めておくとよいでしょう。

【原作品の著作者名を表示する場合】

・原著作者名を二次的著作物に表示することの確認
・原著作者名を表示する場合にどのような態様で表示するか(実名か変名か)

【原作品の著作者名を表示しない場合】

・原著作者名の表示をしない場合、二次的著作物の著作者は原著作者名を表示してはいけないのか(表示しない義務か)、表示するかどうかを選択できるのか(選択権があるのか)の確認
・原著作者名を表示しない義務とする場合、盗用といった指摘が第三者からあったときには二次的著作物の著作者は原著作者からライセンスを受けていることの開示はできるのか
・原著作者名を表示しない義務とする場合、二次的著作物の著作者は、原作品の出所についてどのような説明ができるのか

おわりに

契約で原作品の著作者名を表示するかしないかは決めておくことができ、表示しないということであれば、法的な問題はありません。ただ、原作品の著作者名を表示しなかった取り扱いが倫理的に問題視されたのが今回の事例といえるでしょう。盗用(アプロプリエーション)で有名なジェフ・クーンズですが、今回はライセンスを得ているとのことで、少なくとも裁判所というステージでてんてこ舞いすることはなさそうです。